月別アーカイブ: 2015年2月

いのちの使い方

今日は、妻と同じフロアーに入院していたOさんのお通夜だった。妻と同じ脳幹出血で入院していた彼は、ものすごくいい笑顔の持ち主だった。誰からも慕われる笑顔というのは、1回見ればすぐわかる。受付横のメモリアルコーナーに、病院で毎日見ていて習字が飾ってあった。Oさんは口に筆を咥えて心をこめて文字を書いていた。「心」「話」「福」「合格」などなど、たくさんの作品を書いたけど、僕が一番印象に残っているのは「喰」だ。

胃瘻はつけていたが、食事が上がって来てしまい、肺に誤嚥する危険性が高く、点滴だけで生き抜いていた。「喰」という文字には、特別な思いがあったはずだ。

そして、その習字のとなりには、家族から贈られた表彰状が飾られていた。
うろ覚えだが、書状の内容は次のような言葉だった。
表彰状 貴方は困難な闘病の中、頑張ることの大切さと意味を私たちに教え切り、ラグビーボールをもって、父のもとへタッチダウンしました。よってここに表彰状を贈ります・・・・言葉づかいは正しくはないと思うけど、覚えている範囲ではこんな内容でした。涙が溢れました。

Oさんは、人生を生ききって、大切なことを家族にしっかりと伝えてから旅立ったのだと思いました。我々より7〜8才若い、とても早い旅立ちでした。しかし、家族はしっかりとその旅立ちをうけとめ、表彰状をもって見送ることにしたのです。

人生には、「生き方」という視点と「いのちの使い方」という視点があるのだと痛感しました。家族にそのことを伝えきり、いのちを使い切ってOさんは旅立ったのです。

表彰状と習字のとなりには「どうぞご自由におもちください」と書かれて、白雪姫プロジェクト新聞が置いてありました。Oさんのいのちのメッセージは、遷延性意識障害と呼ばれている人たちにも、どんな状態のすべての人々にも、思いがあり、心があって、伝えたいことがあるというメッセージだと、家族がうけとめ、この場に白雪姫プロジェクトの新聞がおかれたのだろうと思いながら、お通夜の会場をあとにしました。

僕らは僕らなりのいのちの燃やし方があるでしょう。
今日も、妻には言えずじまいでしたが、ちゃんと明日、話をしようと思っています。

ベッドサイド〜時の流れ〜

今日の午前中は38度4分の熱があったようだ。アイシングしてもらい、午後に僕が来たときにはもう36度4分になっていた。この体温調整がうまく出来ないことは、本当に大変だ。妻の脳幹んは、体温調整がへたくそなくせに、外気温を敏感に感知する能力があるようで、気温が高いときに高熱がでるケースが多い。不思議だと思う。

今日は、言語リハビリに立ち会い、それから高熱のため午前中入れなかったお風呂にいれてもらい、それからテレビタイムとなった。昼ドラの「花嫁のれん」は、とてもお気に入りのようで、とてもよく見ている。ぼくが一度間違えて、同じものを何度が見せてしまったので、いまは20話が終わったところだ。以前、お優さんが来てくれたときに言っていたのだけど、妻はどうも、女性の物語が好きで、そういうドラマを見たいと言っていたから、まさに「花嫁のれん」はど真ん中のストライクなんだろう。

しかし、こればかり、連続でも面白みがないだろうから、もう一つちがうのも、合間に見せることにした。「限界集落」だったかな。NHKのドラマなので、これはDVDにするときにCM編集をしなくていいところがいい。それだけでなく、これもある意味、女の子が農業の直売所を頑張るストーリーだから、女性のドラマともいえる。これも、面白そうに見ている。

こうやって、テレビを見ている妻を眺めていると、この5年で本当によくもここまで回復したものだと、つくづく思う。 続きを読む

必殺リハビリ、意地悪トレーニング

妻の体調は最近の天気のようにコロコロ変わる。毎日、とても大変だろうと思う。昨日は、挨拶だけ薄眼をあけて、そのあと目は一度も開かなかった。熱があったわけでもなく、低体温でもなかった。横向きマッサージを丹念にして、昨日はそれだけで病院をでた。目が開かないとツマラナイ。しかし、それは僕の勝手な感想で、妻は目を閉じながらもキックしてみせたり、少しでも僕を喜ばせようとしてくれていた。とにかく、そんな日もある。

今日は、ピシッと目を見開き、天井を睨んでいた。「よっしゃー、調子良さそうだねー!」といきなり声をかけたら、ウンと言うようにアゴのラインが1mmくらい縦に動いた。 続きを読む

青・ソラ・カラス

image
寒い日の次の、あたたかな日差しは嬉しいものだ。病院にむかうのもとてもワクワクする。もちろん、妻が熱を出していないことを前提としているわけだけど、今日なら車椅子でいつもの公園でまったりできると想像するととても楽しい。駅でおりて、走ってギリギリでバスに飛び乗った。このバスにのらないと、20分ちがう。太陽を20分も逃してしまうことになる。ハーハーと息もあがりながらも、バスに飛び乗れてうれしかった。

妻は眠たそうな顔をしていたけど、ゆっくり目をあけて、軽くウィンクをした。僕は早速「おい、今日はあたたかいぞ。外にいくかい?」と声をかけた。寝起きのようで、すぐにはわからないけど、なんだか旦那がワーワーいっとるな・・・というような顔をしている。僕は「あのさ。だからね、お外へ、いー・くー?」とゆっくりと、口を横に開いて、イーをして、唇を尖らせて、ウーをしてみせた。 続きを読む

忘れもの

中央線の豊田駅から電車にドタバタと乗り込んできた、高校生20名ほど。どこかでサッカーの試合があるらしい。8:17 電車発車間際、一人の男の子が「あれー!ヤバ、スパイク忘れた」発車のベルが鳴り始めた。
「えー、何忘れたの?おい、お前、何忘れた?」
「ヤバイ、どーしよう?学校のロッカーだ。ね、ロッカーの鍵ちょーだい」
「ロッカーの鍵は番号だよ。7475」
「え?鍵だよ、鍵ちょーだい」
「だから、7475」ここで、ドアは無情にもしまった。 続きを読む

2ヶ月ぶりの床屋さん

髪の毛のカットをするたびに、首の筋肉の強さが変化していることがよくわかる。この首の強さ一つについてさえも、倒れてから5年の変化の大きさを思う。とにかく、全身、四肢、そして首もまったく力がはいらない状態だった。目をあけてからもずっとどこにも力がはいらないのだ。

首が最初にびっくりするくらい動いたことがある。それは奥沢病院にいたころ、コーヒー好きだった妻に香りだけでもとどけようと思い、自由が丘のスタバで毎朝コーヒーを買って、もっていっていた。そのスタバ初日のことだった。

奥沢病院の病室は狭くて、いつも片側にいた。ベッドにたいして、両サイド空間はあるけれど、どちらかといえば、1ベッド、1サイドを来客スペースにしている感じだったからだ。初スタバの日は、妻はぼくがいる方からやや反対側に顔を向けていた。なので、必然的にコーヒーをやや頭の後ろ側にかざす感じになった。それでも、久しぶりに香るコーヒーに、なんと妻は、グイーンと顔をコーヒーのほうにむけたのだ! 続きを読む

「それ」は忘れた頃にやって来る。

今日はどんより寒い雨ふりだ。こういう日は、どうもすっきりしない。人の気持ちは天気に影響されやすのだろう。しかし、雨がうれしいこともある。雪だって、大人はきらいだけど、子供は大好きだ。人は結局、自分の都合で、楽しかったり、悲しかったりする。それが正直というものだろう。

妻は今日もしっかりと目を見開いて、天井をみていた。こういう日は、調子のいい日だ。目があいていない日は、低体温だったり発熱していたりすることが多い。謎の眠り姫のときもあるけど、だいたい目がパッチリと開いているときは調子がいい日だ。

「ハイ」と、軽く挨拶すると、妻は<来たのね>と瞬きで返事をした。
「昨日見た花嫁のれんおもしろかった?」<うん>・・・と今度は、かすかに頷いた。
「そー、そりゃよかった。じゃぁ、今日は花嫁のれんの、昨日のつづきをみるかい?」
<うん>・・・また、頷いた。とても、かすかな動きだけど、意識と連動して、しっかりと
首を縦方向へうごかし、頷きを連続してみせてくれた。 続きを読む

番組ソムリエのひとりごと

今の病院に転院してきたのは、2010年の11月9日だったと記憶している。このときに、担当してくれた看護師さんと久しぶりにあった。なぜ久しぶりだったかというと、育児休暇をとっていたからだ。言語リハビリの担当の方もそうだったけど、この病院はシステムやルールがとてもしっかりしている。このハードな仕事に対して、働きやすい環境を提供し、患者へはリハビリを提供するという、雇用、そして休暇の体制を、しっかりと整えて病院を経営することは、とても大変なことだろうと思う。

ぼくらの時代は、音楽業界なんていうのは、休みがなくて当たり前という感覚だった。 続きを読む

雪としあわせ

image

こんなに病院に来なかったことははじめてだ。年をとると、回復にも時間がかかってくるということなのだろうか。たるんどる。自分自身に不甲斐ないと思いながら11日ぶりに病院に来たのは昨日のことだ。久しぶりに妻と会って、なんとも言えない表情をしていた。まぁ、この11日の間に、数回息子に来てもらっているから、情報は伝わっている。

「大丈夫?、あなたもう年なんだから、無理はだめよ。」・・・と、言われているかんじだった。優しい言葉というより、よけいなお世話だと、年をとるたびに頑固じじいは現実から目をそむけるのである。昨日は、雪もふり、とても寒かったから、ベッドで過ごしたほうがいいと思っていたが、車椅子にのりたいという意思表示があったので、病院の服の上に、ロングスカートを履いて、そして上着も重ね着をしてから、車椅子に乗った。

ものすごく寒いけど、30秒だけ外に出た。病院の玄関の軒下で、雪の降っているのを見て、外気2度の冷たさを経験してから、病院の中に逃げ込んだ。そこから、いつものデイルームに移動して、大きな窓から雪が降るのを眺めていた。1時間ほど、ずーっと雪を見ていると、どんどん雪の大きさが膨らんできて、舞い落ちるスピードもゆっくりとなっていった。とても楽しい。 続きを読む