やる気ありすぎ

昨日、病院へついたのは、言語リハビリがちょうど終わった頃だった。ベッドにちょうどもどしたところで、ぼくは到着した。言語担当のスタッフが「あ、ベッドに戻りましたが、大丈夫ですか?」とすぐ声をかけてきた。いつも、リハビリに立ち会った時には、そのまま二人で車椅子で散歩するからだ。「いいですいいです。今日も寒いし、ちょっと端座位をするくらいにしますから」と答えた。

「今日、車椅子にのったら、口をうーってやりながら、外の方に首を向けるので、お外に行きたいのかなぁ?って思って、玄関のほうまでいって、一枚ドア越しに外をしばらく眺めていたんです。でも、今日は体温が5度台だったので、外には出ませんでした」「そーですか、やる気満々ですね(笑)」なんていう会話をして、別れた。

そのあとすぐベッドにもどったばかりの妻は、僕に、すごくハッキリとわかる口の動きで<い><う>と2度つづけてやった。・・・まだ、車椅子に乗っていたかったようだ。でも、体温が5度台で、散歩するのはいかん。「いやいや、端座位にしましょう。どう?端座位にしようよ、背中を解放して、しばらくベッドに座わろうよ。やるでしょ?」・・・ちょっと、躊躇したようだが、気持ちの切り替えが早い。<うー>と端座位に同意してくれた。

四肢はもちろん、全身がうまく動かない状態というのは、倒れてから意識がもどった最初は本当に思うようにならないことの連続だっただろう。まずそのことを理解しなくてはならないだろうし、何故?という気持ちもあったはずだ。それは、想像すれば想像するほど、考えれば、考えるほど、ぼくも辛かった。というか、健常者にとっては、想像を絶することだから落ち込む方向へしか想像ができないのだ。

ところが、5年以上たったとはいうものの、今の妻には余裕がある。そして何より「やる気」がある。前回、お出かけは出来なかったけど、そんなことは小さな出来事だろう。我慢することは日常だ、そこに基準をおくと、色々な意味で我慢は空気のようなものかもしれない。我慢と思うからイライラする。これがアベレージで、地球の重力のようなものとなったのではないか?

ぼくらは、いつも空気中の酸素濃度のことや、重力の強さのことなど気にしないで生きている。宇宙飛行士は無重力の世界から地球に帰ってきたら、地球の重力で立ち上がれないほどの力で、ぼくらは地球にひっぱられている。中学生くらいのときに、ジェットコースターにのったときにフワッと体がうく感覚や、飛行機でエアポケットでガンと機体が落ちたときに、体が浮き上がりそうになるという瞬間的な無重力を感じたことがあるが、こちらの経験のほうが特別で、生まれてこのかた、地球の外にでたことはないので、いちいち毎日つきあっている重力のことを考えていない。

きっと、このくらいに僕らが思う「我慢」のレベルが、「え?それ何?へー、そういうのを我慢っていうの?」・・・というくらいに、空気や重力のようになっているのだろう。そして、以前書いたけど、倒れてから妻が手に入れた「新しい力」というのが加わって、人の心が読み取れるようになっているわけだから、同じ人間なんだけど、ちょっとちがった新しいタイプの人生を生きているのだろうと思う。そして、その中でもやっぱり人との出会いは楽しいし、友情はこの上ない喜びだし、お出かけは楽しみでしょうがない。

そうすると、もっといい笑顔で、友達とも会いたいだろうし、もっと動く場所を少しでも増やしていきたいだろうし、それによって、人が喜んでくれる姿を見たいだろう。ともに、喜びを共有することは、生きる喜びに直結する。それは、ぼくもそうだ。だからお出かけもしたいし、毎日、端座位もとりたい。どんなにゆっくりでも、こうやって5年以上かかって、首を少し動かせることができるようになったことや、たまに繰り出されるキックや、体を他動的に動かした瞬間に痙攣のようになって、力がはいる瞬間などは、ぼくにとっても、嬉しくて幸せになる。

あの痙攣は、何も知らない人がみたら、・・・大丈夫ですか?・・・となるだろうけど、僕らにとっては、やったね!って感じなのだ。面白いなあ、人が心配しているのに、こっちは体が動いたと喜んでいる。見る場所によって、捉え方というのはとても違うものなんだとつくづく思う。

この見る場所によって違う感覚というのは、実は「やる気」に関係していると思う。感じ方、捉え方、は自分で決定することができるものだ。見る場所を変えてみると、やる気は出てくるのかもしれない。

とにかく、最近の妻の目つきを見ていると、やる気があるというか、闘志とでもいうのか、あるいは、もっと面白い事たくさんしたい!という目をしている。昨日は、鶴瓶さんの家族に乾杯、常盤貴子編を前後編見て、端座位やって、それでもまだ<い><う>ってやっていた(笑)

おいおい、そんな、もう夕飯の時間だよ・・・と、笑ってごまかして、ぼくは帰った。
やる気ありすぎ(笑)


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